カルチャーショックについての長い雑記

もう3年も前のものだが、下書きに以下の記事が残っていた。生活に支障が出るほどのカルチャーショックは乗り越えたけれど、この経験で「自分はこんな人間である」という自己認識が根底から変わってしまったと思う。関連記事はこれこれ

移民1世のしかも本国から来たばかり・まだ英国に住んでもいない(その点では彼らを移民と呼ぶのも不適切かもしれない)、というひとたちに囲まれて過ごす英国での数ヶ月はたぶん後にも先にもこのときだけなので、このとき以上のカルチャーショックをうけることはもうないと思う。

移民2世や3世だと本当にいろいろなのだけれど、移民1世のしかも移住したてのひと・英語力が母語に圧倒的に及ばないひとはまだ母国の文化や慣習や考え方を色濃く引きずっていて、それが私のそれと合わないと結構しんどいなあと思うことは今もたまにある。

PLAB2の授業がはじまってからカルチャーショックを日々感じていてもう何も考えたくないほど疲れてしまった。私は私が思ってたよりうんと不寛容でもやもやしている。

西洋を中心に考えて他(母国の日本を含む)を辺縁に追いやるのはよくないし自分はそうじゃないと思っていたのに、ムスリム文化に触れて自分が西洋にどっぷり浸かっているのを再確認して、ショックで、考えがまとまらなくなった。

週末はロンドンでオンラインコースを受けたクラスメイトたちと対面での授業に参加した。カルチャーショックは主に(1)講師、(2)街、(3)クラスメイトについて。


(1) 講師に対する色々な不信感は皆が共通して抱いてて、安心した。コース直前に授業がオンラインになることを電話で告げられたけど実はパンデミックが始まってからずっとオンラインだったことも知った(もう2年近くこの運用なのに生徒に直前まで一切知らせないで優先ビザまで申請させて英国に来させて自分の宿舎に泊まらせてお金を儲ける作戦で、インドやパキスタンやジョージアから来た人たちはすっごく怒ってた)。講師はものすごく時間にルーズで、土曜日なんて、絶対8時に来いと言ったから4時半に起きて用意して行ったのに授業が始まったのは10時過ぎだった!他にも必ず授業時間超過するとか授業が系統立ってないとか、メールの返事が遅いとか、差出人がadminX(Xは番号)とか、都合の悪い質問は絶対に無視するとか、covidに関する問診票の最初の質問が結婚ステイタスで次が身長と体重とか、写真や名前のデータに関するプライバシーを捨てる同意書にサインさせられるとか、日本/英国基準で言うと有り得ないことが多くて、講師にはひどく腹を立てていたし困惑していたので、とりあえず一緒に愚痴れる相手がたくさんいて良かった。唯一対面授業をしてる予備校だからここにしたのにという人もいて、こんな詐欺まがいのことが許されるのかと不信感でいっぱいだけど、どうもネットにレビューを投稿するや否や消されたり執拗に電話がかかってきたりするようなので、試験が終わったら一刻も早く関係を断ち切りたい講師だと思った。
日本でいう’いじり’の激しいのを講師は特定の生徒に対してずっとしてたんだけど、UAEで働いてるインド人のクラスメイトにあれはアラブ人だと普通だよむしろ礼儀正しい方って言われて、講師はイラン出身だけどアラブ人なんだなとか、あれがデフォルトのコミュニケーションの世界では私は生きていけないなとか、ぐるぐると考えていた。ジョークが昭和なのもいただけないと思った。
(2) 街はムスリムの街で、アラビア語の看板で溢れていた。皆オリーブや濃い肌の色で、街行く女性の多くがヒジャブやジルバーブを身につけており、私の住む街とはまるで別の国だった。街を歩くときに緊張して荷物を気にする自分がとても嫌だった。ジルバーブをイギリスで見るのがショックで、まじまじと見つめてしまっていたところ、その女性の連れている小学生くらいの女の子と目があった。とても可愛い笑顔でにこにこしながらこちらを見ていた。もしかして母親に不審な目を向けられるのに慣れていて敵意がないことを示すための笑顔なのかなと解釈して、見た目でjudgementalになっていた自分を恥じた。女の子には微笑み返したけどマスクをしていたので通じたかわからない。
以前の投稿にも書いた通り授業中にムスリム文化や国の様子について聞く機会があって、ムスリム文化は私には激烈にしんどいなと思った。ホモフォビアやシングルマザー差別はだめだと生徒に伝えるのに相当な時間を割かれたことへのショックは前に書いたけど、他にも例えばDVに関するトピックでは、英国で生まれた男性に親が本国から女性を連れてきて結婚させる(女性は英語が話せないし社会との繋がりもない)、夫が嫌でも妻は社会や家族からの復讐が怖くて離婚できないみたいなのが比較的よくあると講師が小話をしていて移民一世のムスリム女性は超ハイリスク群だと感じた。
(3) クラスメイトはボツワナや南アフリカやバングラデッシュなど色々な地域から来ていたけど、主にインドとパキスタン出身だった。パキスタン訛りがわかるようになった。インドでもパキスタンでも未だに親が結婚相手を連れてくるのがデフォルトのようで、無意識に医者はそんなことないだろうなんて思っていたけれど、医者も例外ではないらしい。あるクラスメイトたちは「25歳までに結婚させられるのは良い文化だと思う、夫が協力的な人である限り」「私の親はある程度私の意向を汲んで夫を連れてきた」(最近はお見合いからの恋愛婚も少し許されてるらしい)といい、また別のクラスメイトたちは「結婚したら全部終わる。絶対結婚したくない。本当はインド人の女性の大半がそう思ってるけど、親や社会が怖くて言えなかったり実行に移せなかったりするだけ。医者でも結婚したら辞めさせられる。こどもを産むことが大事だから。」みたいに言っていて、空恐ろしくなった。
お昼ご飯を食べに行ったレストランでは私がベジタリアンがあるかソワソワする一方でムスリムの子はハラルがあるかソワソワしていた(ハラルの殺し方が私の倫理観に反するので少し複雑な思いだった)。
パキスタンの人たちは、自己紹介なく「あんたテストいつ」と聞いてきたり、英国人や日本人なら絶対Thank youを忘れない場面でも人に感謝しなかったりして、時に私は使用人のように扱われて、少し鼻白んだ。パキスタンで医師になるような家系の人は、家に何人もお手伝いさんのいるようなお家が多いらしいので、そういうのも関係あって一般のパキスタン人とPLAB2予備校に来ているパキスタン人は雰囲気に少し乖離もあるのかもしれない。あと人が話すところに被せて全然別のこと話し始める人も結構いてそれもびっくりした。何か日本人がステレオタイプ的に優しいとか礼儀正しいとか言われる理由がわかる気がした…。
2週間休みなく9時から21時までオンライン授業で疲弊してたところに、予想外のトラブルとかストレスがどんどん降ってきたので、色んなことにひどく体力と精神を消耗してしまった。私は自分で思ってたより簡単に不寛容な差別主義者になってしまいそうでそれもすごく怖くなった。

Author: しら雲

An expert of the apricot grove

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