Day3

誰もが「これからどんどん状況は改善する」とアドバイスをくれるが、3日目にしてそれを感じている。1日目のサポートのなさはかなり例外的だったようで(その日のレジストラーに大きく左右される;1日目のレジストラーはあと3ヶ月でコンサルタントになるほど年次が上の専攻医なのでもう研修医の心は忘れてしまったのかもしれない)、2日目・3日目と手厚いサポートの中仕事ができたので、検査オーダーには自信が出てきたし、退院サマリーもとりあえず一人でできるようになったと思う。回診中に上級医のリクエストに合わせて画像や検査結果をパソコンにいち早く表示する技術も身につけた。

検査オーダー時は、項目を選ぶたびに左上に小さく金額が表示され、無駄な検査はするなというシグナルになっている上に、9項目以上オーダーするとpop-upが出てそんなに一気に採血できないと注意されてしまう。イギリスの(この病院の?)”ルーチン”検査はFBC, U&E, CRPのようで(ちなみにアメリカはCBCだと思うがイギリスではFBCと言う)、患者さんによってはCBC+CRPしか採血しないなどかなり狭く採血している。また”Do検査”(前回検査項目をコピペしてまたオーダーする)もできないようになっており、毎回ポチポチとtickboxにチェックを入れて、検査理由を提出しなければならない。採血は検査理由の不備でリジェクトされることは無いようだが、放射線関連は検査理由によっては研修医が放射線科医(技師?)から厳しい尋問にあったのち却下されてしまうこともある。また、”Portableか?”という質問は Portable CXRについて尋ねていると思ったのでNoを選んでいたのだが、イギリスでは(この病院では?)これは放射線科のスタッフが患者さんを病棟まで迎えに行く必要があるかという意味で、Yesと答えなければならなかったようで(Yesだと迎えがくる、Noだと患者さんが自分で放射線科に行く)、放射線科に電話するという手間が増えてしまった。日本での経験に引きずられるこういう小さい勘違いが他にも起こりそうなので注意したい。

仕事用アプリが20個以上ある。バイタル確認用、Handover用、検査オーダー・確認用、PACS(PACSという名前にすればいいのにわざわざわかりにくい名前がついている・誰もがPACSと呼ぶ)、退院レター作成用、救急外来や手術室などの記録用、外部とのやりとりをPDFにして取り込んだものを閲覧する用、GPでの記録閲覧用、脊椎関連、メディカルエラー報告、などである。常に使うものだけでも7個くらいある。3日で慣れたので今となってはそんなに大ごとには感じないが、最初はoverwhelmingだった。日本のような「病棟マップ」や「入院患者一覧」もないので、情報確認のために毎回NHS番号や病院番号を打ち込むのも面倒くさい。日本のカルテを輸入して欲しいと思う。

また院内referralもメールで受けるところとアプリで受けるところが混在していてややこしい。

カルテや放射線依頼に”なになに疑い”と書く時は”?”を頭につける。?Malignancy, ?TBといった具合だ。疾患名の前につく”IE”はInfective Exacerbationを指す。日本で育つとIEはInfective endocarditis一択なので(私だけ?)、まだIEなんちゃらという言い方に慣れない。

クラリスロマイシンをClari、メトロニタゾールをMetroと訳すのはなんだか日本語みたいだと思う。日本では電子カルテで#1 感染症 on 薬 day X と常に書くよう心がけていたが、イギリスでは誰もそんなことしていないので(イギリスでは病名の前の#も使わない)、毎回回診のたびにDrug Chart (汚い手書きなので解読に少し時間がかかる)を見ながら何日目か計算しなくてはならず少し面倒くさい。日本のように担当制ではないので研修医は特定の患者さんをすごくよく把握しておくことよりは全員を満遍なく大体知っておくことと素早く情報を探し当てることが求められているように思う。

他院で専門治療を受けた人がリハビリなどで帰院することをrepatという。Repatriationの略だそうだ。日本にもこういう本来の意味とは少し違う使い方をする医療界での単語があったように思うが、パッと思い出せない。

Bridle restraintというテープではなくマグネットで固定するNGチューブがある。

病院食はいつ見ても美味しくなさそうだ。私は日本の検食が結構好きだったのだが(検食の時は魚介類含めて明らかに肉でないものは全部食べていた)、イギリスのは全然食指が動かないので、入院するなら日本がいいなあと思う。一方で、ベッドの横に椅子があって食事をベッドサイドに腰掛けてではなく椅子に座って食べられるのはイギリスのいいところだなと思う。

今日は手厚いサポートの中で働けたので昼食が15時になったことなど微塵も不満に思っていないが、その時間のJunior Doctors Hubは静かだ。昼食をとる外科ローテの1年生と掃除のおじさんしかいなかった。外科ローテの1年生は両親は別の国の人だがイタリアで生まれ育ったそうで、イタリアは差別がひどいのでイギリスに来たといっていた。掃除のおじさんも偶然、アフリカの南の国からイタリアを経由してイギリスに来た人で、イギリスは差別がだいぶマシだといっていた。曰く、イタリア人は露骨に差別をするがイギリス人は表面上は差別しないそう。私のイタリアでの経験と全然違っていてびっくりしてしまった。ヨーロッパの差別主義者が(パンデミックで東アジア人差別が露呈したとはいえ)黒人や中東出身者により厳しい目を向けることの現れかもしれない。

同じ病棟のトリニダード·トバゴ出身のIMGは今日もITに手こずっていて、どうも我々IMGの最初の試練は医学でも英語でもなくパソコンにログインすることのようだ。

今日から毎日5分間のinductionもあるようで、サポート体制は思ったより手厚く大変ありがたく思っている。今日はGPへの手紙の書き方のコツを学んだ。初日が辛すぎたのでどうなることかと思ったが、なんとかがんばれそうな気がする。

ある高齢女性患者さんの夫が「腕が腫れているので見てほしい」とPhysicians Associateに伝えたのを又聞きして私が診察したのだが、PICCがあるほかは特に腫脹なく、患者さんも私がわざわざ診察に来たのを訝しく思っていて、「ほら、男の人ってあれでしょ。腕が痒いから掻いてってお願いしたけど、これ(PICC)みて怖くなっちゃったんだと思うわ。男の人はこれだから困るね。我々女性と違って弱いからね。なんともないよ。」と笑いながらいっていて、回診時は全く冗談を言わない人の人となりが少し知られて嬉しいので弱虫の夫に感謝である。また別の人からも非病的所見をとったのだが、その人もいかにもイギリス人の高齢男性という感じで、遠回しで親切な物言いが素敵だったので、大したことない仕事だったけど私に回ってきてよかった。

Author: しら雲

An expert of the apricot grove

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